KDS New Wave Story-5

KDS New Wave 第5話

超高純度人工水晶「完全結晶」への挑戦

時代が進むにつれ水晶デバイスにはさらなる高周波化/高精度化が求められており、これらを実現するために加工技術はさることながら、不純物・欠陥が極めて少ない超高純度な人工水晶も必要になります。
今回は超高純度な人工水晶の育成への挑戦について紹介いたします。

人工水晶の品質/純度を表す指標:「Q値」

人工水晶は「Q値」と呼ばれる数値を指標としており、Q値が高いほど高品質/高純度とされています。Q値は水晶片に赤外線を透過させ、その透過率を測定しますが、不純物の混入や欠陥、原子配列の乱れなどがあると透過が阻害されます。つまり、「赤外線の透過率が高い=Q値が高い=高品質/高純度」ということになります。

Q値の測定方法 Q値の違いによる結晶状態

 

超高純度結晶の育成に向けた課題

従来の炉を使用した完全結晶の育成は難しく、次の 1️⃣~4️⃣で挙げた課題を解決する必要があります。

1️⃣「育成炉内の温度が外気温により変動する」
人工水晶の育成では外気温変化により育成炉内部の温度が変動してしまうと品質に影響が出てしまいます。この内部温度の変化は、結晶の配列に影響し、温度が変動するたびに配列の乱れを生じます。

育成炉2️⃣「成長速度をさらに遅くできない」
人工水晶は育成炉の下部に原料(天然の水晶)を、上部に種水晶(種子)と呼ばれる板状の水晶を入れ、アルカリ溶液を充填した育成炉を高温/高圧にして原料を溶かし、種水晶の表面に再結晶させます。
育成炉の中では原料エリアと種水晶エリアの温度差により対流が起こり再結晶化は進みます。この温度差が小さければ小さいほど、人工水晶の成長速度は遅くなり、不純物の取り込みや結晶欠陥が減るとともに、原子一つひとつが乱れ無く配列されます。
より高純度な人工水晶を育成するために温度差はできる限り小さくしたいのですが、あまり温度差を小さくしすぎる(=種水晶エリアの温度を上げる)と種水晶まで溶けてしまう難しさがあります。

3️⃣「原料自体の不純物が影響する」
原料となる天然の水晶には不純物が含まれています。人工水晶の育成過程において、約90%の不純物は取り除かれますが、残ってしまった不純物は再結晶した人工水晶の中に取り込まれます。

4️⃣「高純度な水晶を原料にすると育成過程で種水晶が溶ける」
原料 より高純度な水晶を原料にすれば 3️⃣の解決につながるのですが、高純度な水晶は密度が高く通常の原料に比べ溶けにくくなります。高温にすれば溶かすことができるのですが、育成炉を高温にするには時間がかかるため、その間に種水晶エリアの水晶成分が足りなくなり種水晶まで溶けてしまいます。

 

課題解決に向けたチャレンジ

これらの課題を解決するため、当社では新規育成炉を導入しました。保温/温度調整構造を見直した結果、±0.1℃の精度で温度制御が可能となり、課題 1️⃣、2️⃣は解決できました。また、育成炉の加熱用のヒーターを高効率な設計に変更することで育成炉の温度を上げる時間を従来の1/3に短縮することに成功し、課題 3️⃣、4️⃣への対応も可能となりました。

 

超高純度人工水晶の誕生

従来炉で育成した人工水晶のQ値は240万~340万ですが、緻密な温度コントロールが可能な育成炉と高純度な原料を用いることにより、不純物が従来の約1/100となるQ値430万という超高純度人工水晶の育成に成功しました。
当社では、今後もさらなる高Q値の人工水晶の育成を目指して取り組みを進めてまいります。

人工水晶