技術情報

2004年7月15日(木) 電波新聞『ハイテクノロジー』掲載

<フィルタ/水晶デバイス技術特集>

水晶光学ローパスフィルター

はじめに

 デジタル家電新3種の神器の一つに数えられるようになったデジタルスチルカメラや安定した成長を遂げてきているカムコーダなど、撮像素子:CCD/CMOSイメージセンサーを使用したカメラの市場が急拡大している。これらのカメラには映像品質を向上させるため、一部の簡易的デジタルカメラを除いて必ずと言ってよいほど光学ローパスフィルター(OLPF;Optical Low Pass Filter)(写真)が使用される。これら映像のデジタル化の流れに乗り、イメージセンサーの生産量も増加しているが、今回はこのセンサーとセットで使用される光学ローパスフィルターの用途と技術動向について解説する。

各種のデジタルカメラに使用される光学ローパスフィルター

光学ローパスフィルターとは

一般的な撮像素子は画素上にRGB(赤・緑・青)の色フィルターアレイが等間隔に並べられており、それぞれの画素でRGBそれぞれの色情報を認識している。1画素では1色の情報しか認識出来ないため、上下左右の画素の情報から演算により色情報を再現させている。ただし、入力信号が不足してしまった場合(例えば1画素分の映像信号しか入ってこない場合など)、演算エラー(サンプリングによる折り返しひずみ)が発生して本来映像情報のない部分に模様や色つきが発生して、「偽色(モアレ)」(図1)と呼ばれる現象を引き起こしてしまう。そこで、入射光のサンプリング周波数(空間周波数の画素ピッチ周波数)近辺をカットするために、イメージセンサーの手前に光学ローパスフィルターを設置している。  光学ローパスフィルターの方式は何種類かあるが、①光損失が少ない②特性が安定している③特定方向の空間周波数を選択的にカットできる④低価格‐などの条件から、最近では人工水晶の複屈折特性(図2)を利用した方式がほとんどを占め、光学ローパスフィルターと言えば水晶方式を指すことが一般的となっている。  大真空では、特殊鋼製のオートクレーブ(高温高圧容器)を使用して、400℃、1000気圧以上という条件の下、水熱合成法と呼ばれる方法で数ヶ月の期間をかけて人工水晶を育成している。光学用として高品質に育成した人工水晶から、結晶の光学軸(Z軸)に対して45°の角度で水晶ウエハーを切り出すことにより最大の分離幅を持つ複屈折板が得られる。

【図1】モアレ現象

【図2】 複屈折板の原理

デジタルスチルカメラのOLPF

デジタルスチルカメラで使用されるイメージセンサーは、高画素化と小型化の市場ニーズにより、画素ピッチも小型化の方向に進んでいる。現在主流となっている4Mピクセルクラスのセンサーでは、画素ピッチが2.5μm前後であり、近い将来には2.0μm程度まで進むことが見込まれている。この画素の小型化に伴い、光学ローパスフィルターの空間周波数に対するカットオフ周波数も高周波化が進んでいる。より高周波成分をカットするためには、水晶1枚の厚みを薄くする必要があるが、単純に計算すると、2.5μmの分離幅に相当する水晶厚みは0.42mmになり、2.0μmに相当する厚みは0.34mmとなる。デジタルスチルカメラ用イメージセンサーは正方形の画素を並べている方式が一般的であり、水晶光学ローパスフィルターの設計としては、4画素に光を分離させるために水晶を3枚張り合わせた正方4点分離の構成が主流である。複屈折板を透過した光は常光線と異常光線に分かれるが、それぞれ直行する偏光成分に分かれるため、理論上複屈折板2枚では正方4点分離を構成できない。この正方4点分離を得る方法として、水平または垂直方向に分離する複屈折板と、45°方向へ分離する複屈折板2枚を組み合わせる方法がある。その場合、水平または垂直の分離を行う複屈折板の水晶厚みをtとした場合、残り2枚の45°方向の水晶厚みTはT=t/√2の厚みとなり、相対的に薄い水晶板が必要となる。また、光学ローパスフィルターを使用するということは、結像した映像をぼやかすことにつながり解像度を劣化させてしまう。そこでサンプリング周波数よりもさらに高い周波数をカットオフさせ、解像度とのバランスを考えた設計が多く行われている。仕様によっては、0.25mm以下の水晶ウエハーを複数枚接着し、最終製品を切り出す場合もあり、研磨技術、蒸着技術、接着技術を複合させた技術開発が重要になってきている。

カムコーダのOLPF

カムコーダに使用されるCCDは縦長画素が一般的である。そのため、水平方向のモアレ対策が優先される。光学ローパスフィルターの設計としては、水晶2枚平行四辺形型4点分離の構成か、水晶単板水平2点分離の構成が主流である。ただし、今後家庭用カムコーダーもハイビジョン対応に移り変わっていくことは間違いなく、画質向上のために水晶の張り合わせ枚数は増えていくと思われる。

OLPFの光学薄膜技術

 CCD/CMOSイメージセンサーは、構造上紫外光から近赤外光まで感度を持っているため、そのままカラー映像を撮像すると、人間の見る可視光線の映像とは違った色再現となってしまう。そこでセンサーに入る赤外光などの不要な波長成分をカットする必要があり、一般的には同機能を光学ローパスフィルターに付加させている。  とくに最近では、撮像素子の画素小型化による影響とレンズの薄型化による設計制約によって、色収差などの紫外線による画像への影響が大きくなっており、紫外線のカットも重要となってきている。  赤外線をカットする方法には赤外吸収ガラスを張り合わせるか、IR(赤外)カットコート(図3)を蒸着させる方法があり、また紫外線をカットする場合はUV(紫外)カットコート(図4)を蒸着する方法がある。最近では特性面と経済性で有利な、紫外光と赤外光を片面で同時にカットするIR&UVカットコート(図5)が採用されるようになってきた。  イメージセンサーや光学系の進歩は速く、進化の過程で特性が変わる場合が多く、それに合わせた薄膜のカットオフ特性開発が必要である。また、安定した色再現の要求も強く、分光特性のばらつき規格も従来の±10nmから±8nm、さらにそれ以上という要求も出てきている。これらの対応如何によっては製品の色再現性に大きく影響を与えてしまうため、光学薄膜技術の重要性が増している状況である。なお、大真空ではさまざまな要求にも応えられるよう、多くの特性バリエーションを保有しており、新たな要求に対しても短期間で対応できるスピードを重視した開発・生産体制を整えている。

IRカットコーティングの分光特性例(裏面ARコート)
【図3】IRカットコーティングの分光特性例(裏面ARコート)

【図4】UVカットコーティングの分光特性例(裏面ARコート)
【図4】UVカットコーティングの分光特性例(裏面ARコート)

【図5】IR&UVカットコーティングの分光特性例(裏面ARコート)
【図5】IR&UVカットコーティングの分光特性例(裏面ARコート)

新規市場で求められる技術トレンド

・ 1眼レフデジカメ
高画質要求の高まりとともに、一眼レフタイプデジカメの需要が増加している。使用されるCCD/CMOSイメージセンサーは35mmフィルムやAPSフィルムサイズに準拠したものや4/3型などの、一般的なデジカメに使用されるセンサーと比較して大型のセンサーが使用されている。それに伴い、光学ローパスフィルターもセンサーに合わせた大型サイズが必要となっている。  また、高解像度レンズが使用されるため、CCD/CMOSセンサーの直前に置かれる光学ローパスフィルターの欠陥規格も高レベルな品質が要求される。製品によっては10μmクラスの欠陥も実際の映像に写り込んでしまう場合があるため、大型でありながら高レベルな外観規格も満足させる匠的な作り込み技術も求められている。   大真空では今後も加工技術、薄膜技術の向上に努め、高品質な製品を低価格に安定的に提供できる体制を維持して、更なる高画素化、高画質化の要求に応えていく方針である。