技術情報

2006年7月13日(木) 電波新聞『ハイテクノロジー』掲載

<高周波部品技術>

カーエレクトロニクス用水晶振動子の技術

カーエレクトロニクスは、自動車の安全性・快適性向上のために欠かせない技術であり、その電子化は急速に進んでいる。 安定した周波数を供給する水晶デバイスは、携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機器、高品位テレビなど様々な電子機器に使用される重要な部品である。カーエレクトロニクスの分野においても、エンジンコントロールユニットなどの安全制御系、カーナビゲーションシステムなどの情報通信系と様々なシステム、アプリケーションに使用され、一台あたりの水晶デバイスの使用数は年々増加している。 また、一般的な使用用途と比較して過酷な条件下で使用される車載用水晶デバイスは、厳しい信頼性を要求されるとともに、電子機器のモジュール化、ユニット化による高密度実装に対応するため、デバイスの小型化要求も強い。 ここでは、車載用水晶発振回路を設計する際の留意点と、車載用途で要求される性能に対応させた小型・高性能な表面実装型水晶振動子について紹介する。

(1)発振回路設計上の留意点

車載用水晶発振回路を設計する上での留意点として、次の3つが上げられる。
・負荷容量値の確認
・十分な負性抵抗(発振マージン)を確保することによる不発振の防止
・励振レベルを低く抑えることによる周波数異常現象の防止

1.負荷容量
 水晶振動子は、製造時指定の負荷容量値を基準として周波数の合わせこみを行うが、回路側の等価容量値と一致しない場合に周波数ずれが生じる。この場合は回路定数を変更し、回路の等価容量値を調整して水晶振動子の負荷容量値に一致させるか、あるいは負荷容量値を変更して回路の等価容量値に一致させる必要がある。

2.負性抵抗(発振マージン)
 水晶振動子を安定に発振させるためには、発振回路の負性抵抗(発振マージン)をできるだけ大きく設計する必要がある。負性抵抗に十分な大きさがないと、発振が停止する可能性もあり、極めて重要な確認ポイントである。この負性抵抗の測定方法としては、水晶振動子に直列に抵抗を挿入し発振波形を確認する。徐々に抵抗値を大きくし発振が停止する直前の値が負性抵抗値となる。車載用途として使用する場合は、広い使用温度範囲と周辺回路デバイスのバラツキを考慮し、十分な負性抵抗を確保する必要がある。
  大真空では負性抵抗の値として、一般用途で使用される場合に水晶振動子の直列等価抵抗上限規格の5倍以上、車載用途で使用される場合に直列等価抵抗上限規格の10倍以上を推奨している。

3.励振レベル
過大な励振レベルで水晶振動子を動作させた場合、不要な振動モードとの結合を誘発し、発振周波数が不安定になることがある。最悪の場合、水晶片の破損による不発振に至る可能性があることから、適切な励振レベルで使用する必要がある。励振レベルは、高周波電流プローブなどを用いて測定することができ、目安として基本波は300μW 以下、3倍波は500μW以下を推奨している(製品のタイプ、使用周波数により異なる)。
大真空では、車載用途に水晶振動子を使用する場合、上記の検討は必須項目と位置付け、顧客の要望に応じて回路調査サービスによる回路設計最適化のサポートを行っている。

(2)小型・低周波対応

 発振回路を設計する上で負性抵抗は大きく取る必要があるが、そのためには使用する水晶振動子の直列等価抵抗(CI:クリスタルインピーダンス)値がより小さい方が有利と言える。しかしながら製品の小型化要求に伴い内部に搭載する水晶片のサイズも小さくなるため、CI値を小さくすることが困難になる。
 これは小型化に伴い、振動変位の大きい水晶片中央部と、外縁の保持部(固定部)との距離が近くなり、保持部が中央部の自由な振動を阻害することなどが影響している。
 大真空では、パッケージ設計、封止工法の改良等で内部クリアランスを拡大させる独自の技術により、大きさを最大化した水晶片の搭載を可能にした。
この技術を採用し最初に開発した製品がDSX321G型水晶振動子(3.2×2.5mmサイズ)であり、2002年から量産を開始した。また、この技術を5032(5.0×3.2mm)サイズの振動子にも展開したのがDSX530GA型水晶振動子であり、2003年から量産を開始した。
 従来の工法では、下限対応周波数は12MHzであったが、7MHzへと低周波の対応を可能とした。今回紹介する製品の内部構造図を図1に示す。
 周波数範囲は、DSX321G型水晶振動子において9.8MHz〜55MHz、DSX530GA型水晶振動子において7MHz〜54MHzであり、いずれも業界No.1クラスである。(表1、2)

内部構造図
【図1】内部構造図

【表1】車載用水晶振動子一覧
車載用水晶振動子一覧

【表2】周波数範囲とCI規格値
車載用水晶振動子一覧

(3)周波数可変感度

 周波数可変感度は、水晶片上に形成される励振電極のサイズに比例して大きくなるため、水晶片を大きくすることにより周波数可変感度の向上が図れる。 すなわち、製品の小型化に伴い大きな周波数可変感度特性を得ることは困難になるが、大真空では前述した技術で水晶片サイズを大きくすることを可能としたため、周波数可変感度特性を大きく取ることができた。 一例として図2に27.000MHzの周波数可変感度特性を示す。DSX530GA型水晶振動子は、当社従来製品のSMD-49型水晶振動子(製品外形寸法 11.0×4.6×4.2mm)と比較し、体積比で1/12のサイズでありながら、それに匹敵する大きな周波数可変感度特性を得ることが出来た。  周波数可変感度特性は、周波数可変機能を持つVCXO回路などにおいて周波数可変量に影響を与え、周波数可変感度が大きいほど周波数可変量は大きくなる。VCXO回路は、カーナビゲーション、高品位テレビなどのデジタル映像関係用途に広く使用され、この特性は重要なポイントになる。

27.000MHzの周波数可変感度特性
【図2】27.000MHzの周波数可変感度特性

(4) 耐衝撃性能向上

大真空の水晶振動子は、車載電子部品規格AEC−Q200で求められる信頼性を満足しているが、さらに過酷な環境下で使用されることを想定し、より厳しい耐衝撃性、耐振性の要求に応えるために水晶片の保持構造の検討を行った。 その結果、水晶片の保持を片端で行う片保持構造よりも両端で行う両保持構造が有効であることを確認し、耐衝撃性を大きく向上することが出来た。図3に両保持構造と片保持構造の耐衝撃性の比較試験データを示す。 なお、このデータは限界比較データであり、今回紹介している片保持構造の製品においてもAEC−Q200の仕様を十分に満足することを付け加えておく。 大真空では両保持構造を採用したDSX840GK型水晶振動子(8.0×4.5mmサイズ)の量産を2002年より行い、5032サイズにおいても両保持構造を採用したDSX530GK型水晶振動子の量産を2005年より開始している。

両保持構造と方保持構造の耐衝撃性比較試験データ
【図3】両保持構造と方保持構造の耐衝撃性比較試験データ

【今後の展開】

高信頼性を要求される車載用途の水晶振動子においてもコストダウンの要求は厳しく、一般品と比較したコストアップ率を最小限に抑える必要がある。そのため、量産設備としては既存設備を利用し、従来の設計手法や工法の採用、小型化・低周波化で得た技術などをベースにして、カーエレクトロニクス用途に対応した厳しい環境下での使用にも耐える製品の開発を行い、それを実現した。 今後も市場ニーズを適確にとらえて、さらなる小型化・低周波数化・低CI値化・高信頼性化などを進展させた製品の開発を推進し、製品ラインアップを強化する所存である。