技術情報

2006年3月9日(木) 電波新聞『ハイテクノロジー』掲載

<移動体通信用部品技術>

クロック用水晶発振器の技術動向

携帯電話は、移動体通信の中で最も大きな市場である。携帯電話機器では、周波数制御を行うPLLの周波数基準として、水晶発振器のVC-TCXOがキーデバイスとして使用されている。近年の携帯電話は、ブルートゥースや無線LAN機能の取り込みや、カメラ機能、音楽再生、ワンセグ放送受信など多機能化が進んでいる。このためアプリケーションプロセッサやカメラモジュール、チューナモジュールなどが高密度実装され、それぞれに必要なクロックの供給源として、SPXO(Simple Packaged Crystal Oscillator)やVCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)の採用が増加している。これらに搭載される水晶発振器に求められる性能は、小型化に加えて、低消費電流、低電圧動作、高周波対応である。今回は、専用の発振回路とATカット基本波モードの高精度水晶振動子技術によって、これらのニーズに対するソリューションとして開発した水晶発振器を紹介する。

【小型化技術】

SPXOは水晶振動子と発振回路を1つのパッケージに収めた製品で、ユーザーは回路設計の必要がなく簡単に安定な周波数信号を得ることができる。表面実装対応は7050サイズから始まったが、その後小型化が進み、現在では2520サイズの量産が行われている。容積比にして10分の1以下の小型化が実現している。大真空では3225サイズの開発にあたり、従来手法とは異なる基本波振動モードの採用と専用のICチップの開発によって、技術的課題を克服し、小型化しながら、ジッタ特性や低消費電流化など、性能を向上させた。

SPXO「SRシリーズ
【写真1】SPXO「SRシリーズ

【150MHzまで基本波振動を採用】

 MHz帯以上の水晶振動板(水晶素板)には、ATカットモードが用いられ、この振動板の共振周波数はその厚みに反比例する。たとえば40MHzの基本波振動子の場合、その厚みは42μm程度まで薄くなる、従来は40μm程度までが薄板加工上の限界とされ、40MHz以上の周波数では3倍の厚みが使用できる3倍波振動モードが採用されてきた。しかし、3倍波振動モードは水晶振動板が小型になると損失が大きくなる(図1)。このために発振起動の信頼性が低下し、回路の消費電流も大きくなる欠点がある。このため、すべての周波数で基本波モードの水晶振動素板を採用することが求められてきた。薄板になる高周波水晶振動板を独自の研磨技術によって、高精度に実現する工法を開発し、基本波対応領域を従来の40MHzから150MHz(厚み11μm)まで拡大することに成功した。また、振動板面積を従来の3分の1以下に縮小することができ、製品の小型化に貢献している。

小型振動子における基本波と3倍波の損失比較
【図1】小型振動子における基本波と3倍波の損失比較

【専用ICによる低消費電力】

基本波モードの超小型水晶振動板を最適条件で発振させるために、専用のICチップを開発した。このICチップは最適な電力で水晶振動板を発振させることができる。また、より微細なプロセスを採用することによりチップ面積を56%まで削減した。 この2つの新開発部品により、消費電力を従来機種の5分の1以下にすることができた(図2)。また、動作電源電圧は1.8Vから3.3Vの対応が可能になった。

消費電流を5分の1に削減
【図2】消費電流を5分の1に削減

【信頼性の高い基本構造を採用】

小型化した振動板とICチップの採用によって、最小の2520サイズのDSO221SRまで、5つのサイズに共通して、従来からの実装構造であるワイヤボンディング工法を採用している(図3)。この構造は7050サイズで確立したもので、水晶発振器としては最も実績があり、信頼性も高い構造である。

SRシリーズで5サイズ共通の内部構造(ワイヤボンド実装+シーム封止)
【図3】SRシリーズで5サイズ共通の内部構造(ワイヤボンド実装+シーム封止)

【5種類のサイズで部品を共通使用】

今回、SPXOのSRシリーズとして、5サイズで最新のICと振動板を採用し、構造と部品、さらに性能(特性)まで共通化した。(写真1)この結果、組み立てラインの大半に従来機種の設備が流用でき、少ない設備投資で柔軟な生産対応が可能になった。

【3225サイズ90MHz対応のVCXO】(写真2)

VCXOは、発振周波数を微調整できる機能をもつ水晶発振器である。用途はこれまで高速通信やデジタル映像の限られた分野であったが、HDTVや地上波デジタル放送の普及と合わせ需要が増加している。移動体通信機器ではワンセグ放送の開始に伴い、携帯電話や携帯機器でデジタル映像データの入出力が必要になるとともに搭載例が増加し、同時に小型化も求められている。VCXOはSPXOと比べて小型化が遅れていた。当社では1999年に、業界初となる3225サイズのVCXO(DSV321S)を量産化し、高機能の携帯電話などで採用されている。VCXOに使用する振動板は、周波数変化量が大きい特性をもつ基本波モードを採用する必要がある。この他、VCXOの小型化で問題になるのが、小型振動子でも十分な可変幅を確保することである。27MHzの場合、DSV321SVでは±100×10-6(実力値)の可変量を、74MHzでは±130×10-6(実力値)の可変量を実現した(図4)。また、対応周波数を90MHzまで拡大し、3225サイズでは、業界で最も対応レンジの広いシリーズとしている。

90MHz対応の3225サイズVCXO「DSV321SV」
【写真2】90MHz対応の3225サイズVCXO「DSV321SV」

3225サイズVCXOの周波数可変特性
【図4】3225サイズVCXOの周波数可変特性

【まとめ】

SPXOは2520サイズまでの高性能化と部品および構造の共通化を実現したSRシリーズ。VCXOでは、業界最小でかつ90MHzまで対応したDSV321SVを紹介した。共通する特徴は低電力動作、高周波対応、高信頼性である。これを実現したのは、高精度基本波振動板とこれを最適条件で発振させる発振回路(ICチップ)である。これらの代表的な仕様を表1、2、3に示す。SPXOは5サイズすべてが共通の仕様になっており、動作電圧は1.8Vから対応でき、3.3V動作では周波数は150MHzまで対応している。100MHz以上の高周波発振器を設計する手法は、水晶発振器をPLL回路で逓倍する方法、SAW共振子を用いる方法などがある。だが、PLL回路で対応した場合はジッタ特性に、SAW共振子の場合は周波数の温度変動特性と小型化に課題を残す。当社製品は、水晶単結晶の性能を最大限に生かした製品であり、今後も当社が得意とする高周波ATモード水晶振動板の加工技術と、その性能を発揮させる周辺技術を組み合わせることによって、移動体通信機器に求められる性能(小型、省電力、高周波)をとらえた商品を送り出す所存である。

表1SPXO,VCXOのサイズと型名
SPXO,VCXOのサイズと型名

表2SPXO、SRシリーズ特性仕様
SPXO、SRシリーズ特性仕様

表3DSV321SV、特性仕様
DSV321SV、特性仕様