技術情報

H15年7月10日号 電波新聞『ハイテクノロジー』掲載

特集 フィルター/水晶デバイス技術

移動体通信用携帯端末の小型化と高密度実装化に貢献する水晶デバイス

多機能 TCXO モジュール 536MA   カメラモジュール用水晶発振器
多機能 TCXO モジュール 536MA   カメラモジュール用水晶発振器
DSV321ST

はじめに

移動体通信用の携帯端末は従来の音声通話機能に加え、E-Mail などが利用可能なインターネット接続機能はもちろんのこと、カメラ機能の付加により、その構成部品点数は大幅に増加している。また、取り扱うデータサイズの増加よるデータ通信速度の高速化の要求に伴う無線チャンネル確保を目的とした、国内PDC 端末の800MHz/1.5GHz のデュアルバンド化がデバイスの小型化、高密度実装化の要求にさらに拍車をかけた。大真空は、移動体通信用携帯端末に無線信号部のキーデバイスである温度補償水晶発振器(TCXO)を供給してきたが、2002 年から従来の小型化の商品開発に加え、携帯端末の周辺回路を取り込んだ、付加機能を内蔵したTCXO(多機能TCXO モジュール)の商品開発に取り組み、製品の供給を開始した。
ここでは、国内PDC 端末用に機能を特化した多機能TCXO モジュール「DSA536MA」とカメラ機能を内蔵した携帯端末の高密度デバイス実装化=小型化に貢献するカメラモジュール用周波数シフト機能付き水晶発振器「DSV321ST」について説明する。

多機能TCXOモジュール

携帯端末を構成する部品の統合化が進んでいる。多くの場合は既存のIC にその周辺回路を取り込むという形で行われるが、統合化を決定するポイントは、既存の機能をIC に取り込むことによるメリットが どれほどあるかに尽きる。TCXO の多機能化に関しても同様である。「DSA536MA」の開発時のコンセプトはいかにしてPDC 携帯端末の小型化に貢献するかであった。

内蔵する機能の選択

図1 多機能TCXO Module ブロックダイアグラムTCXO を多機能化する場合において端末の大幅な小型化に結びつく機能を選択して内蔵する必要がある。大真空ではTCXO モジュールの置かれる無線信号部に着目し、無線信号部の小型化が可能な以下の機能を選択し内蔵した(図1)。

1.2ポート出力(TCXO 出力)
TCXO の出力は通常、無線信号部のPLL シンセサイザのほかにシステム制御用のLogic 回路のクロックとして使用される。本モジュールでは無線信号部用/Logic 用の専用出力ポートを持ち、それぞれにアイソレーションBuffer Amp を内蔵した。対応周波数は、PDC アプリケーションで一般的に使用される12.6MHz/14.4MHz とした。

2.2nd Local 周波数出力
無線信号部で中間周波数(2nd IF)変換に必要な基準周波数(2nd Local)の発生回路を内蔵した。TCXO の出力信号を9逓(てい)倍するPLL 回路をIC に内蔵し基準周波数を発生する。PLL 回路は無線部の間欠動作信号とリンクしてENABLE/DISABLE 制御可能な外部制御端子を持つことで、待ち受け時の低消費電力化に対応した。出力周波数は129.6MHz(TCXO 出力14.4MHz 場合)である。また、PLL 回路ENABLE /DISABLE時のTCXOモジュールの消費電流は、それぞれ+5.0mA max./+1.8mA max.である(図2)。

図2 2nd Local周波数 出力信号例

3.温度センサー出力
無線信号部に配置される本モジュールの温度センサーは、無線部PA のGain の温度補償に
利用される。また、LCD コントラストの温度補償への利用も可能である。

外観/構造

DSA536MA は、これらの機能を5.0x3.2mm x 1.2mm max.(5032 サイズ)のモジュールサイズで実現した(図3)。

図3 外観図
図3 外観図

構造面では、新たな機能を内蔵したことによるIC チップサイズの大型化を吸収するためフリップチップ実装技術を採用すると共に、IC の実装場所にも工夫をした。また、I/O 端子数の増加によるモジュールサイズの大型化を吸収するためにI/O 端子はBGA 構造とした。BGA 端子部は鉛フリーハンダを使用した完全鉛フリーデバイスである(図4)。

図4 内部構造図
図4 内部構造図

多機能化のメリット

3225サイズ(3.2x2.5mm)のTCXO を使用して本モジュールの機能をすべて外部回路で構成した場合と比べ、実装面積を55%、消費電流を55%それぞれ削減可能である。本モジュールの機能を全て有効に活用した場合、携帯端末の小型化/低消費電流化に大きく寄与することが可能である。

周波数シフト機能付き水晶発振器

「DSV321ST」は外部制御端子に印可する電圧レベルにより、発振周波数を-100ppm 以上
( ”L”レベルから”H”レベルへの変化量)シフトさせることが可能な3225 サイズ
(3.2x2.5mm x 1.2mm max.)の水晶発振器である。カメラモジュールなどのアプリケーシ
ョン回路のクロックとして開発した製品である。
アプリケーション回路のクロックとしては通常、TCXO などの既存クロックを転用する場
合(アプリケーション回路までの信号の引き回しが問題となる)、アプリケーション回路の
近くに専用のクロックを配置する場合の二通りの方法がある。

カメラ機能の問題点

携帯端末にカメラ機能などのアプリケーション機能を追加した場合、アプリケーション回路の影響で無線性能が劣化することが知られている。これはアプリケーション回路の動作クロック周波数の高調波成分が携帯端末の無線周波数と一致することにより発生し、主に微弱な信号を扱う受信部の性能が劣化する。アプリケーション回路の動作クロックが原因のためアプリケーション回路停止状態では影響がない。実使用上の問題として、たとえばカメラ機能を使用中に着信ができないと言う現象の発生が確認されている。

無線部性能劣化の対策

アプリケーション回路から発生するノイズ対策としては、金属板・EMI 対策部品などで無線部回路とシールドする方法がある。しかし、さまざまな機能が携帯端末に搭載され、端末を小型化するためにデバイスの高密度実装化が進んでいる中で、今以上のノイズ対策部品の追加は不可能に近い状況である。そこで、新たな対策方法として、アプリケーション回路に周波数シフト機能を持った専用クロックを設け、無線部回路の性能劣化に影響を与えるアプリケーション回路の動作クロック周波数とその高調波成分を積極的にコントロールして性能劣化を防ぐ方法が脚光を浴びている(図5)。これは、動作クロック周波数をアクティブに制御するための信号を無線部制御ソフトと連携して作り出すが、アプリケーション回路部のノイズ対策は最小限で可能となり、携帯端末の小型化・低コスト化に対する効果は絶大である。

図5 周波数シフト機能による無線部の特性改善 イメージ図
図5 周波数シフト機能による無線部の特性改善 イメージ図

今後の展開

携帯端末の開発を進める中で、端末メーカー各社は独自の観点でIC の統合化を図りながら小型化を進めている。そのため、今回われわれが提案した商品は一例に過ぎず、カスタマーごとにべストなソリューションが存在するわけである。多機能TCXO モジュールに関しては、今回PDC に特化した商品を提案したが、今後は、PDC、GSM、W-CDMA やCDMA2000 などの3G を含む全ての通信システムでメリットのある小型のTCXOモジュールを提案しようと考えている。
また、現行の「DSA536MA」関しても端子部のBGA 構造を廃して、実装面でより扱いやすいLCC 構造への変更などを考えている。小型化したIC を用いて、機能とサイズは同一でより取り扱いしやすい商品構造への展開というUser Friendly な進化である。
周波数シフト機能付き水晶発振器の機能はカスタマーのシステム設計とリンクしており、従来の水晶デバイスとは異なる側面がある。今回はカメラモジュール用として紹介したが、すべてのアプリケーション回路部のノイズ対策に適用可能な技術であり、その効果は絶大である。現在、PDC カメラモジュール用として26.057MHz の商品を供給しているが、W-CDMA などに使用可能な周波数への展開を進めている。大真空では、今後も小型化のトレンドに対応した商品開発に加え、よりカスタマーの視点に立った新たなトレンドの商品開発を進めていく。

今回紹介した製品の詳細情報は、大真空のホームページ http://www.kdsj.co.jp で確認いただきたい。